【不思議体験】河原で鍵を落とした話
※めちゃくちゃにモヤモヤする話です。ご注意ください。
川は霊が集まりやすい場所だという。
ぼくには霊感が全くと言っていいほど無いが、以前、近所の川で変な体験をしたことがあった。
2年前の3月の日曜日、とても天気が良かったので、自宅近くの河原にジョギングに出掛けた。
川沿いに3キロ先の貯水塔まで走り、そこから折り返して来た道を戻るコースだ。
1時間ほど掛けてランニングコースを走りきり、自宅のアパートに戻った。
鍵を開けようと自宅の玄関前でジャージのポケットに手を入れたとき事件は起こった。
「ない・・・?鍵がない!!!!」
ポケットから鍵が消えていたのだ。
正確に言うと、鍵につけていたキーホルダーはちゃんとポケットに入っていたのに、鍵だけがなかった。
まったく意味不明だった。
鍵を入れてたジャージのポケットには、もちろん穴など開いてない。
そのジャージのポケットにはチャックが付いていて、走るときはチャックを閉めていたから密閉状態だったはずだ。
ポケットから鍵がこぼれ落ちることは考えにくい。
「鍵はどうやって落ちたんだ・・・?そもそも鍵を落とすとしたらキーホルダーごと落としているはずだ。なぜキーホルダーだけ残ってるんだ・・・?」
とにかく謎が多すぎて、ぼくは自宅の玄関前で一人錯乱状態に陥った。
誰かに助けを求めたいが、ランニングなので財布もケータイも家に置いてきた。
今持っているものといえば音楽プレーヤーとイヤフォンだけで、まるで役に立たない。
引っ越した時に大家さんからスペアキーをもらっていたが、実家に置いてきた。
ここから実家まで歩くと2時間は掛かる。
状況は最悪に近い。3月の夕方は、ジャージではあまりに寒かった。
「このまま夜になるのはまずい・・・」
ドアの横で体育座りしながら、1時間前の記憶を必死に辿った。
そういえばランニング中、一回だけポケットのチャックを開けたタイミングがあった。
それは、コース折り返し地点の貯水塔の近くを走っていた時だった。
つけていたイヤフォンが邪魔になり、ポケットにしまったのだ。その後すぐにチャックを閉じたので、それがポケットを開けた唯一の場所になった。
あの貯水塔で鍵を落としたことを信じるしかなかった。
ぼくは河原へと引き返した。
貯水塔に着いた頃には、もうだいぶ日が落ちていた。
「落ちているとしたら貯水塔の階段近くのはずだ」
薄暗くなった階段を一段一段探した。
すると、階段の中盤に差し掛かったときに銀色に光るものが見えた。
「あれはもしかして・・・!」
心臓が高鳴る。
恐る恐る近づいて銀色を手に取った。
「・・・鍵だ!!!!」
鍵は階段に落ちていた。
さっき落としたばかりなのに、やけに土がついて汚れていたが、本当に、あまりにも思ってた通りの場所に落ちていた。
「家に入れるンだ!!!!風呂に入れるンだ!!!」
なぜ鍵を落としたのか、なぜ鍵がキーホルダーから外れたのか、なんら疑問は解決しなかったが、今となってはそんなことはどうでもよかった。
とにかく嬉しくて仕方なくて、ダッシュのスキップで家に戻った。
アパートに戻り、急いで鍵を開けようとした。
「ん・・・?」
どうも様子がおかしい。
鍵が鍵穴に入らないのだ。
鍵の向きを逆にしてみるが、それでも入らない。
というより鍵穴のサイズに対して、明らかに鍵が厚すぎる。
これは自分の鍵ではない。
理解するのに時間がかかった。
鍵を落としたと思った場所には、そっくりだけどまったく別の鍵が落ちていたのだ。
密閉状態のポケットから、キーホルダーから外れて鍵だけ落とし、そして思い当たる場所に行ってみたら鍵が落ちてたけどそっくりの鍵だった。
こんなことがあり得ますか?
絶望感と徒労感と信じられない出来事の連続に打ちのめされた。
気がつくと、ぼくはドアの前で四つん這いになっていた。
※左が本物の鍵、右が拾った偽物の鍵。後日作り直したから別物に見えるけど、落としたオリジナルの鍵は柄の部分が一緒だった
完全に日が沈んで夜になり、ぼくはランニングを再開した。
2時間かかる実家を目指して。
21時過ぎに実家に到着した。
両親は突然の帰省に驚いた様子だったが、無事スペアキーを渡してくれた。
今日の顛末を母に話すと、
「川の霊が憑いてるんじゃない?除霊しに行ったほうがいいわよ」
と、耳馴染みのないアドバイスをくれた。
たしかに今回の一件は偶然とは思えない不思議の連続だったし、何か作為的なものさえ感じた。
後日、僕は母のアドバイスを聞き入れて、近所のお寺に厄除けに行くことにした。
厄除けは初めてだった。
和尚さんは祈祷したり、お経を読んだ後、最後に法話をしてくれた。
「人生うまくいかないことばかりです。でも、悪いことはあなただけに起こるわけではありませんし、ずっとは続きません。諦めずに腐らずに努力し続けることで、未来を切り開くことができます。前を向いて生きましょう」
当時、仕事で色々つらい時期でもあったので、和尚さんの言葉が妙に心にしみた。
どんなに辛いことがあってもくさってはいけない。
この先必ずいいことがある。
前を向いて生きよう。
僕は心に決めた。
※2週間後、彼女にフラれました